落ちこぼれ会計人の Music Diary
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ベルトランの散文詩 夜のガスパール
先日、このエントリーでご紹介した↓の本(岩波文庫)、「夜のガスパール」。  KiKi の自宅近くの図書館に所蔵されていたので、とりあえずどんなものか知るために借りてきました。

Gaspar_Night.gif


で、さらさらっと斜め読みしてみたんだけど、KiKi があのラヴェルの「夜のガスパール」が苦手な理由が何となくわかったような気がしました。  端的に言っちゃうと「不気味」なんですよ。  「幻想」という言葉にはもちろんそういう側面もあるとは思うんだけど、KiKi は歪んでちょっといびつなものはあんまり得意じゃないんですよね~。  だから映画なんかも「ホラー」とか「オカルト」は絶対に観ないし・・・・ ^^;  で、あの曲もこの詩集もちょっとそれに近いものがある・・・・・。


この何とも言えない居心地の悪い不気味感はどこから来ているんだろう・・・と思って巻末のベルトラン略年譜を見て、ほんのちょっぴりその理由がわかったような気がしました。  彼が誕生したのは1807年、イタリア。  でも彼はイタリア人ではなくて、彼のお父さんはアルザス出身の軍人で、ナポレオン軍の憲兵中尉として、当時フランス領だったイタリアの地にいたらしい・・・・。  で、ナポレオン失墜とともにお父さんは軍籍を離れディジョンという街に住み、年金生活に入ったようです。  で、彼の人生は貧困と不幸にまみれておりあまり長生きはできなかったらしい・・・・(1841年没)。  ね、何となくわかるでしょ。  

1789年 フランス革命勃発
1793年 ルイ16世 & マリー=アントワネット処刑
1794年 ロベスピエール処刑
1804年 ナポレオン戴冠
1807年 ベルトラン誕生
1814年 ナポレオン エルバ島へ配流
1815年 ナポレオン セントヘレナへ配流
1830年 7月革命
1841年 ベルトラン没
1848年 2月革命


なるほど、こんな時代に生まれて、貧困の中で育った詩人が感性を働かせて書き上げた詩が、心穏やかにゆったりと味わえるような作品じゃないのはある意味では当たり前!!  どうりでどことなく歪(いびつ)でどことなく不気味でどことなく暗くて、「夜」や「悪魔」を連想させるようなことばかりになっちゃうわけだ!!  

で、一応、例の3曲の発想を得たと考えられる彼の散文詩をピックアップしてみるとこんな感じです。

以下、岩波文庫よりの転載です。  (訳:及川 茂)



オンディーヌ (「夜とその魅惑」 より) 

- << 聞いてください!  聞いてください! - 私です、オンディーヌです、淡い月光に照らされた響くような菱形の窓に、雫となって軽く触れているのは。  波の衣装を纏って、星のまたたく美しい夜と、眠りについている美しい湖を露台から見つめている水のお城のお姫様です。

どの波も流れを泳ぐ水の精、どの流れも私のお城へうねってやってくる小径、そして私のお城は、湖の底、火と大地と空気の織りなす三角形の中に、流れる如く建てられています。

聞いてください!  聞いてください! - 私の父は、緑の榛木(はんのき)の木枝で立ち騒ぐ水を打ち静め、姉たちは泡の手で、草が茂り睡蓮やグラジオラスの咲く清々しい小島を愛撫したり、釣糸を垂らしている老いて髯の生えた柳をからかったりしています! >>

水の精は囁く声で歌いながら、私に哀願するように言った、彼女の指輪を私の指に受け、オンディーヌの夫となって、湖の王としてともにその宮殿を訪れようと。

だが、私が、やがては死ぬ運命にある人間の女の方が好きだと答えると、機嫌を損ね恨みを胸に、幾雫かの涙を流したかと思うと、突如甲高い笑い声をあげ、青い窓ガラスに白々と流れる水滴となって消え去った。
  

うんまあ、この詩は KiKi にとっては比較的とっつきやすいかな?  「突如甲高い~」は悪魔を連想させるし、「死」のイメージもそこはかとな~く漂ってくる詩だとは思うけれど・・・・。  どおりでラヴェルの「オンディーヌ」も受け入れやすいわけだ(笑)


絞首台 (「断章」 より)

ああ!  私の耳に聞こえるものは、鋭く音を立てる夜の北風か、それとも絞首台の上で吐息をつく首吊り人か?

あれは、憐れみ深くも絞首台の根元を靴のようにおおう、苔や花の咲かぬ木蔦(きずた)の陰に潜んで歌う蟋蟀(こおろぎ)か?

あれは、もはや聞こえぬ耳のまわりで、獲物を追いつめ、狩の角笛を吹く蝿の音か?

あれは、気まぐれに飛びながら、禿げた頭から血みどろの髪を引き抜くかぶと虫か?

それともあれは、縄の巻きついた首に襟飾りにしようと、半オーヌのモスリンを織る蜘蛛の奴か?

それは地平線の彼方、町の壁に鳴り響く鐘の音、また夕日が赤く染める首吊り人の残骸。


うわぁ、いやですね~、シュールですね~。  やっぱり何となくぞくぞくっとしたざらつく感触だけが残りますね~。  もちろん蟋蟀も蝿もかぶと虫も蜘蛛も悪魔の心を持ってこういうことをしているわけではないけれど・・・・。  でも「死」ってこういうもの・・・。  で、その裏返しが「生」なわけで・・・・。  そして彼が生きた時代を知ってしまうと尚更不気味感が増してきます。  こんなオカルト・チックは御免です ^^;  どおりで、KiKi はこの曲が苦手なわけだ・・・・^^;。


スカルボ (「断章」 より)

ああ、幾度私は奴の声を聞き、奴を見たことか、スカルボを!  黄金の蜂を散りばめた紺青の旗の上に、月が銀の楯のように輝く真夜中に!

幾度私は壁龕(へきがん)の陰で奴が笑う声や、爪を私の寝台の絹のカーテンに軋ませる音を聞いたことか!

幾度私は奴が天井から下り、魔女の紡錘竿(つむざお)から落ちた紡錘のように、片足で旋回し、部屋の中を転がるのを見たことか!

それで小人が目を回したかと思いきや、尖った帽子の先に金の鈴を鳴らし、まるでゴチック式カテドラルの鐘楼のように、奴は月と私の間にぐんぐん大きくなっていった!

しかしまもなく奴の身体は蝋燭の蝋のように青ざめ透きとおり、その顔は燃え残りの炎のように青白く、 - そして突然消え失せた。



スカルボ (「夜とその魅惑」 より)

- << お前が死んだ後、罪を許されようが、あるいは地獄堕ちになろうが >> - この夜、私の耳元にスカルボが囁いた。  - << お前は経帷子のかわりに蜘蛛の巣を着ることになるだろう、俺がお前を蜘蛛と一緒に埋葬してやろう! >>

- << ああ、私の経帷子には >> - 私はひどく泣いて赤くなった目を向けて言った。  - << せめて白楊(はこやなぎ)の葉を下さい。  それに包まれていれば、湖の息吹が私を優しく慰めてくれるでしょう。 >>

- << いいや! >> - 皮肉な小人は嘲笑った。  - << お前を、夕方沈み行く太陽のために盲目となった羽虫どもをあさる、あの黄金虫の餌食としてもよいのだが! >>

- << それでは >> - 私は涙にくれながら言い返した。  - << それでは、この私が象の鼻をした大毒蜘蛛にむさぼり喰われてしまうほうが良いと言うのですか? >>

- << よしよし。 >> - 彼は言い足した。  - << 安心しろ、経帷子には黄金の模様の入った蛇の皮をくれてやろう。  そいつでお前をミイラのようにくるんでやろう。

そして聖ベニーニュ教会の薄暗い地下の納骨堂に、お前を壁によりかからせたまま葬ってやろう。  そこでお前は気の向くままに、地獄で泣く子供たちの声を聞くことだろう。 >>


なるほど~。  こりゃあ確かに恐怖ですね。  くわばら!ですねぇ。  何だかものすご~く後味の悪いものを読んじゃったような気がします ^^;  でも、こんな気味の悪い詩から着想した音楽が人の神経を逆撫でするようなものであることはある意味、すご~く自然ですね。  「悪魔」、「死」、「夜」、「得体の知れないブラックホール」。  

何だか「死」と「悪魔」と「美」について、いろいろ考察したくなるような文章でした。

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